香綾会コラム

No.16「女子ハンドボール部創設のお話/後編」

    

平野 奈美(旧姓:松尾)(高33回生)

ハンドボールを始めて約半年、秋の新人戦に初出場しました。それまで基礎練習が主だったため、技術面は素人とほぼ同レベル、好きだけでは勝てるはずも無く全敗。勝つということがどういうことか分からず、負けることの悔しさもあまり感じなかったように思います。

ただ、他の学校の試合を観て、各選手の情熱、白熱した試合、息詰まるような攻防、息をのむ華麗なプレー、チームワークのよさ、肌で感じる緊張感は言葉では表現できないほどの感動を覚えました。あんなすごいプレーができる選手になりたい、次は絶対に勝ちたいと思いました。

私たち女子部には先輩がいませんでしたので、秋の新人戦の後、男子部のOBの方々が練習に参加してくださったり、練習試合の相手になってくださり技術面も徐々にですが上達して行きました。ただ、練習量は恐らく運動部でも一・二位を争うのではないかと思うくらいでした。特に、忘れられないのが、合宿での過酷な練習(地獄の○丁目と言った)です。合宿の日を追うごとに練習がきつくなり、毎日、肉体的にも精神的にももう限界というところまで追い詰められるのに、また更に練習量は増え、内容はきつくなる。合宿一日目は地獄の1丁目、二日目が2丁目・・・という具合です。

そんなある日のこと、未だに私達初代のメンバー内で「ボール1個事件」と呼んでいる出来事が起こりました。それは、OBに対する私達の礼儀がなってなかったことに先生が激怒されたのです。篠崎先生は、私達に「今からこの1個のボールを全員で拾いに行ってここまで持ってこい」と言い放つや否や野球部グラウンドの彼方へボールを蹴るのです。(通称:ノック。野球のノックとは若干異なり、主に体力練成と躾教育のために行われる。広いグランドにボールが投げ(蹴り)出され、それをチーム全員で取りに行くもの。)

それも、何十回と。彼方へ蹴られたボールを全員がダッシュで取りに行き、先生の元へ「香椎エイーエイーヤーヤー」と声を掛けながら走って戻る。苦しくて倒れそうになりながら、泣きながら、もう2度と先輩に無礼な態度はとりませんと心に誓い全員でボールを必死に追いました。いかに礼儀を重んじる先生であるか、OGのみなさんは嫌というほどに御存じですよね。

ところで、同好会として発足し、約2年が経過した頃、同好会のままでは、部室はなく、部費もなく、ボールを購入することもままならないわけで、なんとか部に昇格するべく、運動を開始しました。全校集会での部活道などの紹介時に、私達数名で壇上に上がり、部室、部費の必要性、一所懸命な毎日の練習や試合での実績(そのころは既に春大会で県大会出場の実績があったと記憶している)を全校生徒の前で必死に訴えました。

その結果、全校生徒及び学校側も部として認めていただき、ここに晴れて部に昇格できたのです。そのときの喜びは筆舌に尽くしがたく、またこれからは更に実績も残し、初代女子ハンドボール部員としての責任と誇りをもって、歴史をつないでいかなければというチーム全員の思いがありました。

さて、こんなきつかった練習をなぜ耐え、3年間続けられたのか、一言では言い尽くせませんが篠崎先生の部員に対する深い愛情を感じられたこと、逆に先生に対する厚い信頼、厳しい練習を耐え抜いた、個性豊かな部員全員の強い絆、それから、顧問の先生方、OBの方々の支えがあったからだと思います。

人生の折り返しを過ぎた今思うのは、ハンドボールを通して短い3年間でしたが、人として何が一番大切なことかを考える基盤を教わったと思っています。篠崎先生は、一生懸命練習をして努力をして勝つことの喜びも教えてくださいましたが、先生が本当に教えたかったことは、卒業したあとの人生で大切なこと、他人を思いやる心友情という絆、協調性の大切さ、忍耐は自分に克つこと、目上の方への礼儀感謝の心・・人は一人では生きてはいけない、すべてが人生を豊かな心で過ごすための基本になることを教わった貴重な充実した三年間だったのです。

女子ハンドの歴史を受け継いでくれている後輩諸氏、ありがとう。

これからも誇りを胸に、時に初心にかえって、無心にボールを追ったあのころの純粋さを思い出して、それぞれの人生を心豊かに生きていきましょう。そして、現役のみなさん、たくさんの困難なことがあると思いますが、どうか投げ出さず、手を抜かず、最後までやり通してください。

今、その篠崎先生が土、日曜日、香椎高校現役にハンドボールを教えにきてくださっていると聞きました。元気いっぱいらしいです。もう、70歳を超えた、老人と呼んでもおかしくない年齢なのに、大病も乗り越えて、仙人のような不老長寿でかわいいたぬきにみなさん是非会いに行ってください。こんなチャンスはそうはありません。

素敵な仙人だぬきに今なら、ハンドボールを教えてもらえます。 先生のモチベーションはきっとハンドボールと母校に対する愛情ですね。頭が下がります。

最後にハンドボールの素晴らしさを一人でも多くの人に知ってもらえることを願っています。

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